ヤクいぜ。

midst

何が何なのか?何が何だろう。生きられる物語はやがて消滅してしまった。何が何なのか?いったい、彼はどこで生まれたのだろう。そう考えれば考えるほどに、生きられた現実が僕のなかに侵入してくることを僕は感じられないでいた。生きられた体験はどこだろう?何が何だったのか?いったい、どこに現世があったんだろう。そう考えるほど、生きることが容易く感じられる。地獄はどこだったのか?僕はなるべく、リアルな事実のことは考えないでいた。

「いつも通りね」

「そう?意外と慎重なんだよ」

「であれば、なおさらいつも通りよ」

「ウーン、あなたは難しい、白熊?」

「ホワイトよ」

「どこがどうあれば?」

「なんでもいい、結局、死のリアリティに勝るものなんてないわ」

「じゃあ、死んでみるとか?」

「ええ、でもそれは性急すぎないかしら?」

「そんなことがある?」

「わからない。でも、リアリティのない世界なんて地獄だわ、ってとこだけは同意してあげる」

「僕が、リアリティのない世界が地獄だ、なんていつ言った?」

「あら?」

言ってなかったかしら。何が何だったの?現れた目の前のものに、それほど目配せしなくてはならないとは、大人になって以来考えなくなった。どうしてすべてのものが一度に、現実として生成されているなんて考え方をしなくてはいけないの?そこに意味があったから、生きられた言葉が体験に変わったから、存在が存在しはじめてきたとでも言いたいのかしらん?それよりも、どこにどうあったか、中身が全部いっしょくたになっていたか、いなかったか、溢れ出したものがもう止まらなかったか、どこにどうあるべきだったか?どうしてかしら?なにもよくならない、これ以上欲しくない、希望を蔑ろにしてしまう、いとも簡単に曜日は繰り返される、どうしてなのかしら?中が外に溢れ、かつてあったものがこわばりを失って外へと出はじめる。扉が開いていたのか?いや、そうではないわ、それはポスターというより、タペストリーと呼ぶべきで、より硬いもの、後ろにあるもの、滑るように転んでゆくもの、取り憑かれたように媚びるもの、そう呼ばれたほうがよほど近いもの、こんな感じであるべきよ。どうかしら?どちらもあっているとも言えるし、何も間違ってないとも言える。間違いだらけの狂った世の中、なんて、どんなふうに取ったってあり得ないわ、世界は馬鹿げてなんかいない、ヤバすぎる、ということもない、かつて一度でも、自分じゃなくて、世界のほうがおかしかった、なんてことはないんだわ。それにしても、ね、どこにどうあったの?あのことなんだけど、何が何だったか、よく思い出せない。どこにどうあるべきだったか、一度に運び出すべきだったか、それともそうっと、もっと慎重にやるべきだったか、今となってはもう駄目ね。いくら考えたって、運ばれゆくものなんて結局は、決まってるんだし、それに抗おうったって私一人じゃそうはいかない。それには、あなたがいなくちゃ。そう、私一人じゃなくて、私とあなた、二人なら、なんとかなるかも。そう信じられる?どこで、どうあるべきだったのか、はっきりさせもしないまま、辺りをうろつくなんてそれこそ愚かな考え方だわ。風の音がする。車のタイヤがアスファルトに張り付いて離れる音が聞こえる。これはどこで知ったのかしら?聞こえる?あなたにも音がする?ええ、そうでなくちゃ、困るものね。どうしたって、一人では立ちゆかない。女なんて、そんなものよ。いつも、躍起になったって、たかが知れてるから、しょうがない、気が付けばそんな風に考えはじめてるもの。だけど、どこにあるかしら、私の方が近寄せられていくような?そんな心地がする。どこにあったかしら?ええ、今でも何もわからないわ。分からないけど、だからって何もしない、何も書かない、なんてことはしない。いつでもどこにいても、私は手を動かすことから始める、そう決めてるの。でも、

「どこに何があったかしら?」

「ウワォー、結局そこに戻ってくる?」

「私、何をしてたのかしら」

「数時間、トリップしてたよ」

「嘘」

「素敵だったよ」

「嘘よ。どこで、私が?」

「いきなり始まったから、つい止められなかったんだ」

「どうして止めてくれなかったのよ」

「いきなり始まったから、つい止められなかったんだよ」

「馬鹿みたい」

「ほんと、そうだね」

「何も聞いてこないで」

「うん、そうするよ」

彼女の顔、脚、短いフリルのついたワンピース……僕は彼女といるとき、いつも自動的にイキそうになるのを堪える必要があった。耐えることに神経を注いでいたから、彼女のとの会話はいつもうまくいかなかったし、それで彼女に嫌われたりしたら、結局は僕が彼女の前でイクのを我慢していたこと自体、半ば意味が無かったなんてことになるんだけど、今のところそうじゃない。僕たちにとって、会話はいつでもどこからでも始められるものだったし、お互い、そのことに気付いてもいたんだけど、何を話すかよりも、どんなふうに話すか、笑顔でいられるか、相手を許す優しい心が持てているか、理性と狂気の触手から電気を飛ばし合う、交感する、夜の真っ暗闇、鈍いなめらかな黒が波打つ海の真ん中で、200m先の相手にライトを出し合うようなものだったから、僕は言葉を書き連ねることができればどうだってよかった。でも、どんなだったろう?僕にトリップを見られるのは。いい気分じゃなかっただろう、とは予想する。だってパンティー一丁で虚空に向かって演説するのを見られるなんて、僕なら嫌だし、きっと彼女もそうだと思うから。何かを尋ねるなんて馬鹿らしいし、鋏で斬りつけてきたときはさすがにどうかと思ったけど、考えてみれば僕だって同じようなものだった。頭のイカれ具合では彼女のほうが勝るけど、何せ彼女より頭がイカれてる奴はみんな死んだし、彼女ほどの狂人がここまで永くこらえてるのは奇跡なんじゃないかと思う。ペースト、選択、すべてを選択、 ペースト、選択、すべてを選択、 

 

何もかもが鎖に縛られて動けないのを見ているよりかは、僕も一緒に縛られていたほうがマシなんじゃないかと思う。どうやったって逃れられないわけだし、粋がってる暇があったらもっと建設的なものに目を向けたほうが有意義だから、どこに何があっても結局は自分で好きなものを選んで、そうやって始めることになるってことは嫌というほど知ってきた。

「ペースト、選択、すべてを選択」

「そうは思わない?」

「ペースト、選択、すべてを選択」

「あらら、どうしちゃったの?」

「壊れてなんかないわ。しかも、困ってなんかないわ」

「うーん、でも、言いたくないけど相当ヘンだよ。ここのとこ落ち込んでるし」

「落ち込んでなんかないわ。しかも、頼りになるのはあなただけ」

「そう言われちゃ……」

滅相もない。嬉しい言葉。

「次々に溢れるのは何だったかしら?音のない空間、運び出す時期、いつの日にか、私の胸は揉みに揉まれた」

「僕が君のおっぱいを揉むとき、それは慎重に揉むし、絶対に傷つけないようにするよ、約束する」

「誰が揉ませるなんていったかしら?」

「あ痛ーッ」

断りなしに胸を揉もうとしたら、彼女のカモシカのような脚でハイキックを喰らってしまった。これはこれでいいものなんだけど、どうせなら胸だって揉みたい。

「そうだけど、何も蹴ることないのでは?減るもんじゃないのではないでしょうか?」

「どう思われますか?」

「君に聞いてるんだけど」

「質問を質問で返してこないで」

「それはこっちの台詞じゃないかな」

「救いようのない男」

「いや、それはひどくない?たしかに悪いとは思ってるけど」

内緒話、遊ばれたシーソー、トイレの掃除、こんなことがいつまで続くんだろう。空に昇る雲、顔を顰めたくなるような瘴気の香り、都会で選ばれる表情、雨を映す自転車のベル。警告、状況、悲しい調べ、箱庭、包まれる雰囲気、どことなくそう感じる。もてはやされる指標、拘泥できるものとそうでないもの、姿、力比べ、鏡像、占有、録音、地中、ゆくあて、次の線路、装甲、光、使命、ことがら、中身、付き合い、青春、烈火、認められることと怒られること。変装しているときにだけ、繋がっていると感じる。どこまでいったって結局できることは限られているのかもしれない。作文、緑藻、怠惰、堤防、衰亡、大雨、懇願、言葉、駆動、林道、尖塔、雪崩、滑車、融通、居ても経ってもいられない。彼女に電マをプレゼントすること。

 

冷静に考えれば、あまり気にならないようなことでも、今の自分にとっては死にたくなる。次に訪れるものの総体は、僕をなしくずしにしてしまう。結局のところ手出し不可能なんじゃない?どうすれば運べるだろう。訪れるものに気を払わねばならない?いやあ、しかし……

「僕の大阪的感性では、仕上がりよりもどんなふうに食らいつくせるかが大事になる」

「そういうわりに、関西弁に訛ってなくない?」

「関西弁は話せまへんねん」

「どこにどうあるべきか?」

「つながりは保てまへんねん」

「なんでいつもそうじゃないの?」

「おおきに、おおきに、そうでんねん」

「あなたって、行方知れずね」

「そうでんねん、おおきにでんねん」

「現実にいびられるよりも、誰かと分かり合えないままでいるほうが辛い?」

「でんねん」

「でんねんって、何よ」

「言葉であるというより、オノマトペ、でんねん」

「全然言ってる意味が分からない、でんねん」

「どうしようって言うんでんねん」

「さあ。 そろそろ出掛けない?」

「どこに?」

「外の、部屋の、奥の、場所よ」

「外の、部屋の、奥?」

「何よ」

「いや、ナイスアイデアだなあ、と思って」

「行きましょう、いつまでもあなたの部屋にいたら、鼻がひしゃげる」

「非道っ」

辛い思いは一時的で、悲しい思いも長続きしない。かといってハッピーな気持ちが永続するかというと、案外そんな訳にもいかなくて、つい無媒介のもの、おのずと呼び起こされてくる実感そのものの方へ、奴の方へと向かいたくなる。死こそ満足そのもの、幸福そのものになり得る唯一のものであり、それは最も強く注意され、関心を向けられることができます。この世の仕組みを解き明かそうとすれば、僕はすぐさまボディワークに向かわざるを得なくなる。僕には、救いも、絶望も、遠い。彼女の惚れ惚れするような心の前に、どんなふうに立ち塞がることができるだろう?どんなふうに、そばで寝転がることができるだろう?ずいぶん長いあいだ盗まれたままになっていたそれを、ついに取りに行こうと思う。そこにすべてが置かれてあったもの。

「もうこれでいい!」

そう思えるようなもの。

「何が?」

「いや、何でもない」

「だったら黙ってて。いま、宇宙時間を変えることができそうだったのに」

「何だかすごそう」

「わからないの?」

「何もわからない」

「それはあはは!ということであり、私が殺されたがってるのに!ということであり、もう誰もこの確信の痕跡を嗅ぐことができないのね!ということであり、生産そのもののことであり、新たな経験の地平が、まったくの初めから作り出されることであり、またもやすべてが初めてなのね!」

想像力が大胆に屈折して、ある想定外の場所を目がけて進んでいったとき、次のような問題に突き当たることがある。それは、この世のすべての物事が

「まあ、こんな感じでしょ」

というぞんざいな感覚で決められているというどうしようもない事実であり、暗に自分さえもまったく厳密ではないと示されることによって、吐きそうになる。ああ、たとえばそんなとき、彼女なら背中をさすってくれるだろうか?それともそんな僕を悪し様に罵るだろうか。それもそれでいいものだということは抜きにしても、実のところ、僕は本当にどっちだって構わないんだ。というのも、僕には分かるんだけど、もし僕が気分が悪くなって吐いたりしたら、彼女はどんなふうにだって、僕の背中をさすってくれるだろう。それは行為と必ず結び付けられるわけではないけど、かりに僕を悪し様に罵ろうと、カモシカのような脚で僕の金玉を蹴り付けようと、それは彼女なりに僕の背中をさすってくれているんだということに、僕はどうしたって思い至ってしまうんだ。ああ、思うんだけど、並外れた集中力を持った人間は、どんなことだって正当化できてしまうんじゃないかな。もう、選び取ることができるものさしが十分に多すぎて、人の立場に立つことにあまりに長けすぎて、あらゆることをいかようにも赦すことができる法律をいくつも持っているし、寝て起きたらどんなことでもころって忘れているということだけは、ちゃんと胸にしまってあるし、手に入れたものも、手放したものも、どんな部屋も、どんな人間も、きっと好きになってしまうじゃないかな?それは世界なんて、人間なんてもうどうでもいい、ということとおそらく限りなく近しいから、それとなく危ういんだろうけど、それでも彼らがそのようにしかピースでいられないというなら、彼らの研究の辿り着いた侵しがたい聖域というものを、僕もできるかぎり邪魔しないでおきたいと思う。